イエロージャンキー
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「あ」


「あ…」


下駄箱からローファーを出していると、視界に一人の影。
顔を上げると彼がいて、あたしの動きは停止した。

会わないように、早く生徒会室から出たのに。


「…帰るの?」


「うん、用事あるから」


彼の問いに、目をそらしながら、でも明るく返す。
目を見たら、今ならきっとすぐ泣く。


「…俺のこと避けてる?」


「避けてなんかないよ。」


今度は、彼のネクタイの結び目を見ながら笑って言った。
何かで、「ネクタイの結び目を見て話すと目を見て話されてるように感じる」って書いてあった気がしたから。


「そっか」


「うん」


ため息混じりの彼の言葉を、後押しするように同意した。
あたしは彼と距離ができてから、きっと嘘をつくことが多くなった。
そしてそれは、段々上手くなっていると思う。
今こうして笑っていられるのが、その証拠だ。


「じゃ。」


短くそう言って踵を返す。
早く離れよう。彼を騙せている間に。



「待って」



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