レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
「私の家に泥棒が入ったの。盗まれたのは大陸から持ち帰った彫刻が二点。まあ、値打ちはそこそこというところだけれど。それともう一点――父が蚤の市で買った懐中時計。安物だと私も父も思ったけど……」
「ただの安物ではなかった?」
 ヴェイリーは興味を持ったようで、興味深そうな色が彼の瞳に浮かぶ。

「どうかしら。安物には違いないわ」
 エリザベスは肩をすくめた。
「ただ、内部に聖骨がおさめられているというふれこみだったの。たしかに蓋が加工されていて、そこに骨のようなものは入っていたけれど、人の骨も鶏の骨も区別つかないのよ、私。だから何とも言えないわ」

「鶏の骨、ね。それで――、あなたはなんと思っているのかな?」
 彼はおかしそうな口調で「鶏の骨」と繰り返す。大陸にいた頃は牧場を持っていたけれど、区別がつかないのは事実だからエリザベスは面白がられても何とも思わなかった。

「家にある新聞を遡ってみたわ。最近盗難が増えているというのはどの新聞にも書いてあった。でも、ゴシップ紙には、盗まれた品は聖骨がらみの物があるって」
「なるほど」
 ヴェイリーは立派な顎鬚に手をやった。

「ゴシップ紙の記事を鵜呑みにするのは危険だが――一般紙が書けない記事をのせていることもたしかにある」
「そうでしょう? 下世話な記事もたくさんあるけれど」
 血生臭い事件について読みふけるのが好きだというのもまた事実なのだが、エリザベスがゴシップ紙を購読している理由はここにあった。
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