レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
乙女心は少々複雑
 公園は、たくさんの子どもたちで賑わっていた。
 ボールを蹴り合っている子どもたちが、並んで歩くエリザベスとリチャードを見かけて冷やかすような声を上げる。
 それに手を振って応えておいて、二人はのんびりと歩みを進めた。今日は暑すぎず、寒すぎず、散歩をするのには最適の気候だ。

 噴水のところまで来て、二人は足を止めた。
「ねえ、リズ?」
 思いきったようにリチャードが話の口火を切る。
「何かしら?」
「マクマリー家の商売は楽しい?」
 ふいの問いにエリザベスはリチャードを見上げた。貴族階級の人間が、商売に興味を示すのは珍しい。

 彼の真意がわからないままに、エリザベスは返した。
「……楽しいわ。とても。やりがいもあるしね」
「僕にもできるかな?」
 その問いまでは予想していなかった。思いがけない質問に、エリザベスの目が丸くなった。
「商売、したいの?」

「……格好悪い話なんだけど。お金が必要なんだ。家を存続させたかったらね」
「家財を手放さなければならないくらい?」
 表情をわずかにゆがませ、彼は情けなさそうにエリザベスから視線をそらせた。
「すぐにそんなことにはならないけれど。僕の代になったら、体面を保つのに苦労しそうだ」
 彼は、エリザベスがラティーマ大陸に渡ったいきさつをどこかで聞いたのだろう。人の噂は忘れ去られるものではあるけれど、案外しぶとく生き残るものでもある。

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