レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
「……その、泣きそうな表情、いいわね」
 にやりとしてエリザベスは言った。まだ声変わりもしていないロイは、年齢の割にはずいぶん華奢な体格だ。
 この屋敷に来たのは、行き倒れているのを文字通りエリザベスが拾った時で、エリザベス一人で屋敷まで引きずることができたくらいに軽いのだ。

「あなたは何もしてないわよ。わたしが頼みたいことがあるの」
「リズお嬢さんが俺に頼みたいことって……」
「たったままじゃ話もできないから座りなさい」
 エリザベスは、茶道具を運んできたパーカーが、お茶を二人の間のテーブルに置いていくのを黙って見ていた。
 続いて入ってきたマギーのトレイには、山のように茶菓子が載せられている。
「おいしそう! さあ、好きなものを食べなさい」
 テーブルに置かれた皿を、エリザベスはロイの方へと押しやった。

 皿にはクッキーやパイやケーキが皿からあふれ出しそうなほど載せられている。
マギーは下がり、パーカーとロイがその場に残された。ロイに遠慮させまいと、エリザベスが先に皿の菓子を口に運ぶ。
「いいから、食べなさい」
 目を丸くしていたロイは、おそるおそるお菓子の山に手を伸ばした。ケーキを手に取り、手掴みで口に運ぶ。
「やっぱうまいな」
「ロイ」
 口いっぱいにケーキを頬張っているロイにエリザベスは、真剣な表情で切り出したのだった。
< 132 / 251 >

この作品をシェア

pagetop