レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
「欲しいのは、情報」
 パーカーが退室したのを待って、エリザベスは再度口を開く。おそらく彼が扉のところに張り付いて聞き耳を立てているであろうことはわかっていたけれど、そこまでは止めるつもりもなかった。彼がレディ・メアリに何を頼まれているのかも知っているから。
「情報って何です?」
 完全にあきらめた口調になって、ロイはたずねた。

「男の人って大事なものはなぜか財布に入れるでしょ。オルランド公爵の財布が欲しいの」
「……どうでしょうね」
 ロイは渋った。
「毎日練習しないと、だめなんですよ、ああいうのは。俺、リズお嬢さんに拾われてから、いっさい練習やめてまっとうに暮らしてるんで」
 ロイの言うことももっともだった。この屋敷は多くの人間を雇っているわけではないが、金銭的に不自由しているというわけではない。
 数少ない使用人たちには、他家より多額の報酬と居心地のいい住環境を与えている。金銭目的で犯罪を働く必要はないのだ。

 けれど、それではエリザベスの目的を果たすことはできない。
「……そう。困ったわね」
 エリザベスはうなった。
「困った?」
「ええ――ちょっと困ったわ」
 自分がよろしくないことをしようと頼もうとしている自覚はある。それならそれで、ほかの手を考えるしかない。

 ロイに頼めないなら、と考えておいた手もある。本当はそれを使うつもりはなかったけれど。
 いや、何もかも忘れて、見なかったことにして、屋根裏部屋に封じた記憶は封じておくべきなのかもしれない。
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