レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
 ――こういう時は、何をしても許される。
 エリザベス自身もそう予想していたけれど、退室したパーカーは扉に張りついていた。それはもうべったりと。
 この屋敷の扉は重厚で、中の話し声など普通聞こえるはずはないのだが、そこは「扉を細く開ける」ことで対応した。
 執事たるもの、臨機応変に動くことができなければならないのである。

 エリザベスがパーカーの主なのであるが、彼女の保護者たるレディ・メアリからパーカーもまた厳然たる命令を受けている。
「あの娘が無茶をしないように見張っていてちょうだい」
 エリザベスの普段の言動を見る限り、レディ・メアリの心配ももっともだ。
 彼女の命令に逆らうつもりは毛頭ないのだが――ああ、胃が痛い。

 そろそろ薬をもう少し強いものにしてもらった方がいいのではないだろうか。
 エリザベスがロイに頼んでいたことを聞いてしまったパーカーは心の中でぼやいた。「オルランド公爵の財布が欲しい」なんて、正気の沙汰とも思えない。
 レディ・メアリに連絡して、どうにか引き止める術を考えるべきなのだろうが――。

 果たして、それでいいのだろうか。自分自身の心が揺らいでいることもまた、忠実な執事は知っていた。
 エリザベスの希望を叶えてやりたい。そう思っているのもまた事実なのである。法律に反していたとしても、危険はないとエリザベスが言うのなら。
 ――主のことを想うのならば、きっちり止めるべきなのだろうが。
< 138 / 251 >

この作品をシェア

pagetop