レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
 エリザベスが、何か調べて回っていることは彼も十分承知していた。怪しげな醜聞ばかり掲載されている新聞を読みふけるだけではなく、エリザベス自身の商売のトラブルをネタに、テレンス・ヴェイリーの屋敷にまで乗り込んだのだから。
 あの屋敷をうろうろしている人間とエリザベスには深く関わり合って欲しくはない。特に、あのダスティ・グレンとは。
 胃薬の瓶を握りしめるパーカーの手に力がこもる。エリザベス自身、彼に対する感情は単なるファンのものであるとわかっているようで、婚約者候補のリチャードとよく出かけているし、このまま屋敷に起きた事件のことは忘れ去ってくれればいいと思っていたのだが。

「オルランド公爵の財布――止めるべき――いや、止めなければ」
 パーカーは口の中でつぶやく。それと共に、彼の脳裏によみがえるのは、鮮やかな少女の姿。
「私、いつか帰ってくる。絶対、この屋敷に帰ってくるから――」
 十歳の少女とは思えない、決意を込めた眼差し。まっすぐに彼を見据えていた。
 あの日、まだ十代半ばの少年は悟ってしまった。
 彼女の願いを叶えるためなら、きっと自分はたいていのことなら目をつぶってしまうのだろう。彼女の命が危険にさらされるようなことにでもならない限り。
 パーカーもエリザベスもまだ知らない。この後、彼らがますます大きな事件に巻き込まれていくことを。
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