レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
「ロイに女の子の格好させたら、女の子に見えないかしら?」
「……見えなくもないですねぇ!」
 マギーが手をわきわきとさせた。ものすごーく楽しそうに見える。嫌な予感を憶えたらしく、ロイが一歩後退して視線を巡らせた。
「パーカーさぁぁぁん!」
「あら、彼なら今出かけてるわよ?」
 にやりとしたエリザベスの言葉が終わるより早く、ロイの悲鳴が響き渡った。

 しばらくの間悲鳴と叱りつけるエリザベスの声と完全に面白がっているマギーの声が交錯し――やがて、部屋の中は静かになった。
「まあ、ずいぶん可愛くなったこと――前が可愛くなかったと言っているわけじゃないのよ?」
 ソファでぐったりとしているロイを見つめ、エリザベスは満足そうに腰に手をあてる。
 どこから持ち出してきたのやら、ロイには鬘がつけられて黒い髪が顔をおおっている。髪の一部だけを編んで、シルクのリボンが飾ってあった。顔には軽く化粧が施されて、睫はくるんとカールさせられている。
 選んだ口紅は、よりにもよってピンク色だ。

「ほらほら、このワンピース、似合うでしょ?」
「……似合うとか似合わないとか問題はそこではなく!」
 ロイは不満そうに唇を尖らせるが、それが逆に小悪魔めいた愛らしさに見えるとエリザベスは自信満々だ。
「お嬢さーん、口紅こっちの方がよくないですか?」
「マギー、お前何楽しそうにしてるんだよ!」
 マギーが抱えているのはエリザベスの化粧箱だ。そこには口紅だけで数十本、その他に白粉だの頬紅だのといった化粧道具が収められている。
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