レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
「いいわね、あなたはわたしの友達、アルマ・シャーレー、十六歳よ――わたしのところに来たのは、結婚相手を探すため」
「……なんですか、その設定」
 ロイが半眼でエリザベスを睨みつけた。アルマ・シャーレーとはエリザベスの友人の名前だ。近々こちらに来ることになっていたのだが、家庭の事情で予定は中止になっていた。

「お嬢さん、でもこの手、どう見ても労働階級ですよ」
 ロイの手を見たマギーが口を挟む。
「かまわないわ。アルマ・シャーレーも労働している子だもの。手が荒れているのは不自然じゃないわ」
「だとしたら手袋が必要ですね。貴族階級の男性がいるところにこの年頃の女の子が出かけるのなら――なるべく手は隠そうとするでしょうね。わたしならそうしますよ」
「そうねえ。マギーの言うとおりかも」

「……お嬢さん、無茶言うにもほどがありますって」
 ソファに胡坐をかいたロイはばさばさと頭を振った。その拍子に鬘がずり落ちる。

「マギー。今日からロイの礼儀作法をどうにかしてやって――そうね、ロイ。あなたはしばらくトムの仕事は手伝わなくていいから、最低限女の子に見えるようにしてちょうだい」
 手を伸ばして鬘の位置を直したエリザベスはロイに手を合わせた。
「それと、レースの手袋に慣れてちょうだいね」
 しかたないなとロイはため息をつき、仕事に戻っていったのだった。むろん、このことはパーカーには内緒なのである。
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