レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
「お嬢様」
「……わかっているわ。もう、この件には首をつっこまない」
 そんなに値打ちのある品ではない。他の人達がほしがっている骨とやらにも興味はない。ただ、あの時計にエリザベスがこだわる理由は一つだけ。
 
 ならば、エリザベスが諦めるしかないではないか。
「それでようございます」
 パーカーは微笑む。その笑みはとても優しくて――胸を突き刺されたような気がする。今日は何度、同じ思いをすればいいのだろう。完全に自業自得ではあるけれど。
 
「明日、またダスティのお見舞いに行くから。それは邪魔させないわよ?」
「……お供させていただきます」
「病室の中には入らないでちょうだい。せっかくダスティ・グレンと二人きりになるチャンスなんですからね!」
 顔の前に、ぴしりと指をたてて、エリザベスは宣言した。

 この件からは手をひくと言ったのだから、本当は彼に会いに行くべきではないのかもしれない。だが、まだ、聞いていないことがある。
「かしこまりました――その前にお嬢様。お仕事の電話が何本か入っておりました。お疲れのところとは思いますが、なるべく早くご確認を」
「――わかったわ」
 仕事をしていたほうが気分がまぎれる。パーカーが開いてくれた扉から中に入り、真っ先に仕事部屋へと向かったのだった。
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