レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
 今日だって、今のところ、エリザベスが受け入れている唯一の婚約者候補、リチャードが一緒だというから、送り出したというのに。
 ――それなのに。
 予定した時間を過ぎても、エリザベスは戻ってこない。単に盛り上がってしまって帰宅が遅れているのならいいのだが、不吉な予感は胸を離れようとしなかった。

 いまだに服をきっちりと着込んだままのパーカーは時計を見上げた。深夜三時。
 メイドやその他の使用人達は下がらせた。自分一人が起きて待っていればすむ話だからと、玄関のベルが鳴ったらすぐに出られる位置に控えているのだが、戻ってくる気配はない。

 もともと、社交界では少しはずれたところのあるエリザベスだったから、社交の場に出かけても、遅くなることはめったになかった。
 華やかな場を嫌いとまではいかないが、どちらかというと、それよりは商談を進めている方が楽しいと口にしていたこともある。

 大陸で財を築き、生活に追われるのではなく生活を楽しむことも覚えたけれど、彼女は、いつもどこか居心地悪そうに彼の目には見えていた。
 せめて、屋敷の中でだけは自由に呼吸ができるようにと、気を配ってきたつもりだし、時にはそれが、「淑女らしくない行動をとる」とレディ・メアリの眉をしかめさせる理由にもなっていた。
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