レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
埋められない何か
 翌朝、エリザベスはそれなりに気分よく目をさました。身体のあちこちはまだ痛いけれど、車の中で逆さまになって目が覚めた昨朝よりはるかにましだ。

 ベルを鳴らせば、勢いよくマギーがすっ飛んでくる。まずは今日の外出に何を着ていくかだ。マギーとクリーム色のワンピースにワンピースと共布の帽子、茶色のベルトのブーツを合わせることで決着する。

 出かけるまでに着ているのはラベンダー色のワンピースに決めた。その格好で朝食の席に下りていくと、パーカーが恭しく出迎えた。

「おはようございます。お嬢様」

「おはよう、パーカー」

 昨日の出来事が気まずくて、思わずつんけんした態度を取ってしまう。けれど、彼はその点については触れようとはしなかった。
 
「何かあった?」

「レディ・メアリからお電話がございました。具合がいいようなら今日、午後のお茶を一緒に——とのことでございます」

「今日の午後、ね」

 エリザベスは顔をしかめた。

 昨日行方不明になっている間、当然のごとくヴァルミア伯爵家にも連絡が行っただろう。レディ・メアリからお小言を喰らうのは覚悟していたけれど、今日さっそくとまでは思わなかった。

 だが、これも自分でまいた種だ——しかたない。ため息を一つついて、パーカーに手を振った。

「いいわ。お茶の時間にお邪魔しますとお返事しておいて。午前中の仕事が終わったらすぐに出かけたいから、昼食は簡単なものでいいわ」

「どちらにお出かけでしょう?」

 パーカーの目に、危険な色が浮かぶのをエリザベスは察知した。これも、昨日の今日だから当然だ。しかたない。

「ダスティのお見舞いに決まっているでしょう? それからトムに花束を用意するように伝えて。ラッピングはマギーにお願いするわ。彼のところに持って行きたいから」

 屋敷内に飾る花は、トムが庭で育てている花を使っている。見舞いに持って行く品にしても、同様だ。マギーなら綺麗にラッピングしてくれる。

「それと、今日は新聞は読んでいる時間ないから、あなた先に読んでいいわ」

 食堂のテーブルの上、エリザベスの席に置かれていた『デイリー・ゴシップ』を、パーカーの方へと滑らせてやる。彼は慇懃な仕草でそれを受け取った。

「ありがとうございます」

「終わったら、私の寝室に置いておいて。夜、読めそうなら読むから——三誌ともよ」
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