レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
 ダスティがエリザベスたちを乗せてくれたのは、高級車だった。わざわざキマイラ研究会なんてところに足を踏み入れなくても、生活には困ってなさそうに見えるのに、どうしてそんなことをするのだろう。

「あの車は、もらい物」

 神経質な笑い声の名残を残したまま、ダスティは言った。

「俳優なんてね、そんなに儲かる仕事じゃないんだよ、エリザベス。歌手としてレコードを出したって、売り上げは大半が会社が持って行ってしまう。僕はミニー・フライの経営する会社の所属だから、大半が彼女の懐に入るというわけさ」

「そうなの?」

「舞台だってそう。まあ、ファンの子からもらうプレゼントは高価なものだったりするけれど、だからと言ってそれを売り飛ばすわけにもいかないしね」

 天井に向けて手を伸ばし、その手を見つめたまま彼は続ける。今、彼の視界には、エリザベスは入っていないようだった。

「生活するだけなら、困ることはない。たぶん——僕が悪いんだ。自分がいてはいけないところにとどまろうとしたから」

「いてはいけないところ——?」

「君も知ってるよね。僕は貧民街の出身で、こうして今は舞台に立っていられるけれど、自分の居場所がないような気がするって」

 確かにそんなことを言っていた。初めて顔を合わせたあの日に。彼がロイと同じような出自であることは、たった今エリザベスが口にしたことだった。
 
「だから、それを埋め合わせる何かが欲しかった。キマイラ研究会に所属して、貴族階級の友人を増やすことができれば、育ちが違うという劣等感を振り払うことができると思ったんだ。彼らより金銭的に裕福になれば余裕もできるだろうしね」

「お金じゃ気持ちは埋められないわ」

 エリザベスは首を横に振る。逃げるようにこの国を去った。大陸に渡った直後には、その日食べるものにも困るようなことさえあった。
 
「君ならわかってくれると思っていたのに」

「わかる……わかるような気はするわ。でも、完全にわかるとは言えない。だって私はあなた自身じゃないから」

 階級からはみ出しているという点ではエリザベスも同じだ。どこへ行っても所属するグループがないという意味ではダスティ以上かもしれなかった。
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