レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
「ああ、今日はダイヤモンドの加工職人に会わないといけないのだったわね」

 机の上に置いてあるスケジュール帳に目をとめて、エリザベスは呟く。


「そんな仕事入ってましたっけ?」

 マギーがたずねる。タイプを任されている彼女は、エリザベスの仕事の内容についてもほとんど全て知っている。

「私用よ、私用。リチャードへのプレゼントを願いするつもりだったの」

 研究結果が学会誌に取り上げられたお祝いにタイピンをプレゼントするつもりだったのだけれど、結婚を断ってしまったから少し気まずい。

「お喜びになりますね、きっと」
「喜んでくれるといいけど」

 今でも、受け取ってくれるだろうか。
 そんな思いが胸をかすめる——けれど。受け取ってくれなかったとしても、それはそれ、これはこれ。贈り物をしたいと思った気持ちに嘘はない。

 パーカーがコーヒーを運んでくる。エリザベスはポットを自分の机の上に載せると、猛然と仕事にかかり始めた。
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