レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
すべてが消えるその前に
「……それは欺瞞じゃないかな、エリザベス。君が『持つ者』の側にいるからできる発言だと僕は思うよ」

 彼のその台詞の間も、エリザベスの持つ拳銃の銃口はダスティに向いたまま。薄く笑ったダスティは、恐れる様子もなく腕を動かして室内の一点を指さした。

「ほら、見てごらん。僕達は——鉛から金を生成する方法を完成させた.ただ、どうしても賢者の石を使う必要があってね。石炭の使用量も馬鹿にはできないんだけど、得られる金から上がる利益の方がはるかに大きいからね」

 視線の方を横目でうかがえば、昼間エリザベスが見た容器には石炭が満たされていた。
 彼の手がレバーを引くと、けたたましい音をたてて、機械が動作を始めた。そして、そこから吐き出された蒸気がゆっくりと移動を始める。

「こちらの容器で溶かされているのはただの鉛——でも、この機械と聖骨——賢者の石によって——鉛は金となる」

 うかされたような口調で、ダスティは続ける。

「僕は、この輝きに魅せられたんだ。他人なんて知るもんか。僕は自力でのし上がった——のし上がった先に自分の居場所はなかったけどね」

 ダスティはエリザベスに向かって微笑んだ。

「悲しい人ね」

 向けられた銃口が震えることはなかったけれど、声は揺れた。

「あなたは悲しい人だわ、ダスティ。金銭をもとめるのならまだ理解できた。だけどあなたは違う。私なんか想像もつかないくらい悲しい人だった」

 この思いを、どう言葉にすれば彼に伝えることができるんだろう。たしかに同じような闇を抱えていても、エリザベスとダスティの対処方法はまるで違っていた。

「鉛が金になる……その瞬間を見つめることしか喜べないなんて、なんて……悲しい、人」
「君ならわかってくれると思っていたんだけどね」
「わからないわ。だって、たしかに私も、ここが自分の場所ではないと思うことはたくさんあった。でも……」

 貴族階級からはどこかはみ出したように見られているけれど、エリザベスの周囲にだって心を許せる人達はいた。
 ダスティにだって、同じようにしてくれた人はいたはずなのに。

「君がキマイラ会に参加してくれたなら——もっともっと発展しただろうにね」
「参加する気はないわ。興味ないもの」
「うん、わかってる。残念だったよ、リズ。というわけで、全員捕えろ——そして殺せ!」
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