レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
 結局朝食の時間を過ぎてもエリザベスは戻ることなく、パーカーとマギーは主を探しに外へと出た。広大な庭か、それとも外へ行ってしまったか。

 パーカーが裏口から外へ行こうとすると、向こう側からエリザベスがやってくるのが見えた。

「お、お嬢様! それは一体……」
「そこで拾ったの」

 悪びれない笑顔で、エリザベスは言った。

「ひ……拾ったの、ではありませんっ!」

 エリザベスが肩を貸す様にして引きずってきたのは、十代前半と思われる少年だった。行き倒れているのを拾って来たらしく、どこもかしこも汚れている。少年の汚れが移ったらしく、エリザベスの着ているものもどろどろに汚れていた。

「……拾った以上、最後まで面倒は見るわよ?」
「問題はそこじゃありませんっ!」

 こんな得体の知れない少年を屋敷に入れるなんてとんでもない。

「じゃあ、見捨てろって言うの? あなたがそんな……そんな酷い人だとは思わなかった!」

 みるみるうちにエリザベスの瞳に涙が浮かぶ。

「……な、納屋……でしたら……よろしいのでは?」

 しまった、エリザベスのペースに乗せられた……が、まさかこういう方向から攻めてくるとは思わなかった。

 胃薬はどこにあっただろうか。後で薬局に走ることにしようか。

 けれど、彼はまだ気付いていなかった――この先、常に胃薬を携帯するようになることに。

 この時拾われた少年が、屋敷で働くようになったのはそれから少したった後の話。
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