レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
 ◆ ◆ ◆

 数日が経過して、帳簿を完全に調べ終えたエリザベスは決めた。

「パーカー。明日、アンドレアスに会いに行くわ。どうしても納得いかないのよね。あなたも来てちょうだい」

「危険なことをなさるおつもりですか?」

 パーカーの眉が危険な角度による。直立不動だった彼の手がのろのろと上がっていって、胃のあたりを押さえた。

「危ない? アンドレアスは善良な市民でしょ、たぶんだけど。私がどう見られるかくらい知っているわ。よくて若造、悪ければ頭の空っぽな小娘よ――そろそろ大娘という年齢だけど。要は大人の、頼れそうに見える男性についていてほしいってわけ」

 アンドレアスとは何度も顔を合わせたというわけではない。事務手続きなら使いの者に書類を渡せば済んでしまう話だからだ。

 けれど、さほど顔を合わせたことがなくても、自分がどう見られているかくらいエリザベスにもわかる。

「私も若造だとは思いますが」

「成人男性がいるのといないのじゃ大違いよ、きっと」

 そう言うと、エリザベスはあくびをした。ずっと帳簿や切り抜きとにらめっこをしていたから神経を消耗してしまったようだ。

「今日は早めに寝た方がよさそうね。夕食の時間を早めにしてくれる?」

「そろそろ寝るわ。新聞はこのままにしておいてちょうだい。明日また読むから」

 記事を集めたファイルを手に、エリザベスは立ち上がった。寝室に向かう彼女を見送って、パーカーは残された新聞の山を見る。

 主が何を見つけ出そうとしているのか、アンドレアスと顔を合わせて何をしようとしているのか、彼には見当もつかなかったけれど、一つだけ確実なことがある。

 久しぶりに錠剤を取り出すことになるのだろう。彼の胸ポケットにはいつも硝子の瓶がおさめられている。

 主が留守にしていた間は忘れ去っていた痛み。

 けれど、執事がそんな悩みを抱えているなんて、当然エリザベスは気づいていないのだった。
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