レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
エリザベス、出る
 翌日、エリザベスは完全な戦闘態勢で玄関ホールへと降り立った。

 白のブラウス、紺のジャケット、黒のタイトで膝下まであるスカート。黒のパンプスに続く足を絹のストッキングが優雅に覆っている。

 運転席に座っているのがいつもの運転手ではなく、少年なのに気がついたエリザベスはたずねた。

「あら、ロイが運転なの? トムはどうしたのかしら?」

 運転席に座っている少年は、庭師兼運転手の助手として働いているロイだ。姓は不明。エリザベスが行き倒れているのを拾ってきたのが、そのまま屋敷にいついて現在に至っている。

「親方は例の――腰が痛いとかで」
「あらあら困ったわね」
「俺、大丈夫ですよ! 運転ずいぶん練習したし」

 練習したのはエリザベスも知っている。練習用に使わせていた古い車が、あちこちぼこぼこになっていたから。

「ぶつけないで走らせられるようになった?」
「もちろんですとも!」
「ならいいわ、ここ。アンドレアス商会まで」

 心外な、という声を上げた少年に、エリザベスは住所を書いた紙を差し出した。運転席に置いてある地図をちらりと確認したロイは、すぐに場所がわかった様子で地図を閉じる。
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