レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
 ロイにお駄賃をやってから、渡された品を抱えてエリザベスの仕事部屋へと入る。ここは先代の時代には書斎として使われていたのだが、今は三つの事務机にタイプライターに帳簿類、金庫……と、先代の頃とは完全に趣を変えた設えになっていた。
「……やれやれ」
 エリザベスの手元から返されてきた資料を、元の場所に並べる。それから、きちんと仕事部屋の中を整えた。

 本来なら、と仕事部屋の中を見回しながらパーカーは考えた。
 エリザベスは商売から手を引いても十分にやっていけるのだ。領地だって無事に取り戻した。商売を全て売れば、孫の代まで遊んで暮らせるほどの額を手にすることができるだろう。
 けれど、彼女はそれを潔しとしなかった。

「……私、商売をたたむつもりはないの」
 何とか彼女を言いくるめて、安値で買いたたこうとしている商売人達を相手にしていた時のことを思い出す。彼女は、どんな相手が来ても負けたりなんてしなかった。
 自分の目で見て、自分の手で調べて――そうやって得た情報だけを確実なものとして取り入れる。それが彼女のやり方だったはずなのに。

 ――あんな胡散臭い情報を集めるなんて。
 家を留守にする前、彼女が一生懸命新聞記事を切り抜いていた時のことを思い出せば、彼の胃がきゅうっと苦痛を訴えてきた。
 ――いや、薬はもうしばらく我慢我慢。
 彼女が何を考えてあんな切り抜きを集めていたのか、パーカーには理解することができないけれど。
 戻ってくるまでの間だけは、しっかりと胃を休めてやろうと思った。
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