レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
 軽く夕食を終え、玄関ホールに降り立ったエリザベスは、ラベンダー色のドレスを選んでいた。結い直した髪には、アメジストの髪飾りを差す。白い手袋とハンドバッグを持って玄関へと下りていくと、待っていたパーカーもきっちりと身なりを整えていた。
「あら、似合うじゃない」
「着慣れていないもので、いささかくすぐったいような来もいたしますが」
 エリザベスは誉めたけれど、パーカーは苦笑いだ。

 玄関前に車が回される。
「それじゃ劇場まで一緒にいきましょ」
 エリザベスが先に立ち、意気揚々と玄関を出た。今日ハンドルを握るのは、庭師見習いのロイではなく、その親方であるトムだ。腰はまだ本調子ではないはずなのだが、劇場で他の車にぶつけたら大事だと思ったのだろう。

「今夜も綺麗ですね、リズお嬢さん」
「ありがと――」
 トムが誉めてくれたのに対し、さらりと返して、エリザベスは車の後部座席に乗り込んだ。パーカーが続くのを待ち、トムが車の扉を閉じる。
 ゆっくりと車は走り始めた。

 劇場までは、それほど時間はかからなかった。
 すらりとしたエリザベスがパーカーを連れて劇場前に立つと、ひそやかに感心したような声があがる。
 それにはかまわず彼女は入り口へと突き進み、そこでチケットをしめして入場した。
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