レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難

 人であふれていたホールとは違って、そこは静かだった。エリザベスは化粧室の場所を確認した。化粧室内の個室に静かに滑り込むと、ハンドバッグをもう一度開いた。
 小型の拳銃を取り出して、ドレスの裾を捲りあげる。ベルトでつったストッキングの内側にそれを押し込んだ。

 個室から出ると鏡に向かい化粧を直す。いや、直すふりだ。
 それから崩れてもいない髪に手をやってから、チケットに書かれているボックスの番号をもう一度確認した。
 そのボックスは、いくつか並んでいる席の中でも一番いい場所にあった。舞台の正面、観劇を誰にも邪魔されない位置。

「エリザベス・マクマリー嬢?」
 エリザベスが近づいていくと、ボックスの前に立ってる使用人らしい男が声をかけてきた。
 だまってうなずくと、彼は
「失礼します」
 と、エリザベスのハンドバッグを取り上げた。
 ざっと中を確認してバッグを戻すと、彼はエリザベスのためにボックスの扉を開いてくれた。


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