神様のおもちゃ箱
「由紀子さん、朝ですよ。起きてください」

「んー」

するとある事に気付いた。


“この人こんなに薄着だったっけ?”


由紀子さんの上半身は、薄手のキャミソール一枚だった。

確か昨日は、スーツ姿で、白いシャツと黒いブレザーを羽織っていたはず…。


辺りを見回すと、やっぱり服が脱ぎ捨てられている。


思わずドキっとして、俺は由紀子さんにバサっと布団をかぶせた。


思春期の少年の朝には、刺激的過ぎるって気持ちと、

いい大人が何やってんだよ、と情けなく思う気持ちと、両者譲らぬせめぎあいだ。



俺は再び声を掛け続けた。

壁の掛け時計の針は、着々と進む。


遅刻15分まではセーフだが、それ以上遅れると欠席扱いになってしまう。


単位がかかっている。

もう何回か欠席しているので、できればもう休みたくない。


居眠りしてても、出席すればこっちのものだ。


置いていくか?

いや、それはさすがにまずいだろう。


「俺、遅れるんで、マジで。由紀子さ〜ん……」


もういい加減に呆れてきたところに、由紀子さんの目がバッと見開いた。

俺は思わずびくっとする。


そしてなぜか、ベッドの横に正座した。


「あの、おはよう、ございます」


恐る恐るそう言うと、由紀子さんは体を起こし、目をぱちくりさせた。

俺は控えめに「あの~…」と声をかけようとしたが、



「えっ、え…?えっ!?」


由紀子さんは、それだけを連呼し、髪をわしゃわしゃと掻いて、ハッとして体を布団で隠した。


必死で今自分が置かれている状況を飲み込もうとしていた。

かなりキョドっている。


無理もないか。

一晩寝て酔いも覚めて正気に戻っているはずだ。

昨日の記憶は多分、全部ブッとんでいるんだろう。


もし自分が……と考えたら、恥ずかし死にするかもしれない、と思った。



「ここどこ……?君……えっ私、まさか…?!」


由紀子さんは、バッと布団の中を覗き込む。

ちょっと待ったぁぁ!


俺は慌てて何度も首を横に振った。



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