18.44m
遥はボードの前に立った。
地面に埋め込まれている白いプレートを踏む。
土は盛られていない。
でも、この公園では、ここがマウンドだった。
形なんてどうでもいい。
18.44m。
この距離さえ分かれば、土が高くなくてもいい。
遥はポケットから、硬式ボールを取り出した。
学校でいつも使っている練習球。
昨日の練習の際、一つ拝借してきたのだ。
左手にグラブをはめ、肩の力を抜く。
いつもよりゆっくりなテンポで、遥は投球フォームに入った。
指から離れたボールは山なりの軌道を描き、オレンジ色の中心に当たる。
バァンと割れるような音が響いた。
住宅街のど真ん中でやっていたら、間違いなく怒られている。
けれどもここは、周囲を囲う木々が音を吸い込んでくれるようで、苦情を耳にすることはなかった。
地面に転がったボールを掬い上げ、プレートに戻る。
再び投げ、ボールを追いかけ、またマウンドに立つ。
ひとりだけの投球練習。
先に来てしまったときや、駿が病気か何かで来ないときは、いつもひとりで練習していた。
ボードにぶつかる音と、地面を転がる乾いた音しか聞こえない。
楽しいな。
オレンジの目印に向かって投げるたび、遥の胸の奥はわくりと騒いだ。
やっぱり、野球は面白い。