容疑者はヒトリ。
第二章~苦悩~



10月5日午後7時。

あの日から3日が経つ。




洋子は、サヤカの通夜に足を運んでいた。





あの日から洋子の脳内では
和田の言葉が繰り返されていた。






――――近藤さんは殺人のセンで考えております――――






サヤカ……私の親友は
何者かの手によって殺されたのだ。





「洋子ちゃん。」

静かに洋子を呼ぶ声がした。

声の主は孝子であった。







「おばさん…」



「洋子ちゃん、サヤカちゃんの御両親に挨拶に行きましょう。」



「はい…」





ふたりは最前列のサヤカの親族の元へ向かった。







サヤカの母親は憔悴しきった様子だった。

目はどこを見ているのか分からない。

頬はこけ、身体も骨のようになっていた。



人間は3日で、こんなにも変わるものだったのか。





父は、気丈に振る舞い

参列者に挨拶をして回っていた。


しかしその父も、頬はすっかりこけていた。






当たり前だ。

一人娘を失ったのだ。







洋子は父に声をかけた。






「近藤のおじさん…」



「あ…っ、洋子ちゃん。久しぶりだね。」



父はやはり気丈に、笑顔すら浮かべた。




「サヤカを見つけてくれたのは…洋子ちゃんなんだろう?ありがとうね…」



「はい…あと…」

洋子は孝子を手招きした。





「はじめまして。サヤカちゃんのアパートの管理人をしている室井です。」





「おばさんも、私と一緒に…」





洋子がそこまで言った瞬間である。





今まで一言も発さずに座っていたサヤカの母が

勢い良く立ち上がり、

そのままこちらに向かってきた。




そして孝子の服の襟元を掴み、叫んだ。








「あなたが……あなたがサヤカのアパートの管理人!?なんで気づかなかったのよ…ねえ!!!!どうして!!!!」


サヤカの母の目付きは言い表せないほど鋭いものであった。

その鋭い目が、次は洋子に向けられた。




「あなたが…!!あなたがもっと早くサヤカに気づいていればあの子は!!どうしてくれるのよ!ねえ!どうしてくれるのよぉ……!!!」



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