擬態化同盟 ~教師と生徒の秘密事~
結城君は眼鏡の奥で一瞬目を見開いただけで、すぐに目を細めて皮肉るような笑みを浮かべた。
「正義感振りかざしてる奴って嫌い。教師ってその典型だよね。だから先生も、嫌いだな」
今だに信じられない。
テストは当たり前のように学年1位で、しっかりとした口調で先生に対して敬うような態度で接し、始業式の生徒会長の挨拶も立派だった。
「俺が生徒じゃなければ、俺がどうなろうと関係ないでしょ?」
こんな模範生のような結城君から発せられる言葉は単純明快なのに、理解するまでに時間がかかる。
「生徒じゃなければ、って例え話をしたって無駄だと思うな。だって、結城君は私の生徒だもの。だとしたら、嫌われても私は何度でも正義感振りかざすんだから」
本心を言ったつもりだ。
なのに、結城君は噴き出して、ケラケラと笑っていた。
「ほんっとに真面目なんだね。先生って」
結城君が身を乗り出すと、彼の小顔が近距離に接近し、薄い唇をゆっくりと動かした。
「俺ね、そういう顔って歪ませたくなっちゃうんだよね」
ゾクリ、と何かが背中を下から上に這い上がりそれが全身に伝わり身震いに変わる。
ここまで豹変する結城君に恐怖さえ覚えた。
「卒業まで退屈しなさそうだ」
クスッと楽しそうに笑って、結城君の端正な顔が離れて行くと、私は緊張から解放され、深く息を吐き出した。
「からかわないで」
「どうしよっかな」
結城君はリズムをつけながら逡巡するような素振りを見せ、楽しそうに私の反応を窺っていた。
「用が無いなら戻るから」
茶化すような態度にだんだん腹が立ってきて、結城君を睨みつけ背を向けた。
「あ、怒った?ごめん、用はあるんだよ」
「・・・何の?」
無視できないことが悔しくて、わずかな抵抗に声色を低くして結城君を睨みつけた。