大嫌いなやつと結婚しました!!

「…それって…希君のことか?」
ピクッ
何で…何で希の事を知ってるわけ!?
まさか…誘拐…?

「お前…俺のこと…犯罪者にしようとしてねえか?真っ青だぞ?」
「…は、はい?」
「希とは、施設で会って…そうそうに頭叩かれたんだよ。」
え、頭を…叩かれたって、希に?

「すみません…うちの息子が…。」
「いやいや…第一、俺の息子でもあるだろ。」
ズキッ…
わかってる…あんたの子だよ。でも、それは、ここの跡取り…とも言える。つまり…。

「俺が…希をお前から奪っちまうってか?」
「はい…え?」
「お前…言いたいことバレバレ。ってかそのまま口に出してたぞ。」

あ~!!私としたことが…!!
私は、膝に乗せた荷物に頭を乗せた。

ゴンッ!!
「…ッ!!」
ヤバ…固いものだらけだった…。
「…プッ…バカ、お前…見てるだけで面白いよな!!そこは…なにも変わらねえな~。」
そんなに嬉しそうに言われても、嬉しかねーっつの。

私は、頭を撫でながら顔を起こした。
「悪かったな…。」
「え?」
「ファスナー…壊れちまっただろ?弁償する。」
弁償…ですか。結局金だよな…山科は。

「結構です。親からのおこづかいじゃ、大変でしょ。」

山科は…ギロリと私を見下ろした。
私は、止めてなかった作業着のボタンをコツコツ止めはじめた。
「まったく…コイツ!」
ゴチッ!!
山科の方から…げんこつが落ちてきた。
「…痛!!何すんの!!」
「俺は、言っとくが…親におこづかいを好きなように貰ってるお坊っちゃまじゃなくなったんだからな!!」
…今までそうだったんかい…。

「ちゃんと働いて…お前と同じお給料をもらってんだよ!!」
『給料』に“お”がついていた。それだけだったのに…山科のキャラと違ったから…つい吹き出してしまった。

「フッ…ハハハ…。」
「お前、何が面白いんだよ!!」
「スミマセン…だって…お給料って…」
私は、“お”にアクセントをつけてバカにしてやった。これくらいの時にしか…出来ないもんね~こういうこと。

すると…急に体が揺れて視界が暗くなった。顔には固い布が押し付けられていた。
離れようにも、腕で動けなくなってる。布からは…タバコ、山科が吸ってるタバコの匂いがした
これ、また抱き締められてる?
今度は…前から。

「ちょっと…山科先輩!!」
このままじゃ…離れそうにない…。
怒れば離れるかな…。
「やめろ!山科秋羅!!」
呼び捨てをしたからか…山科の体がピクッと震えた…。
ぎゅぅぅううう!!

え?何でこーなったの?…どーしよ。
「やっと…名前で呼んだな…夏海。」
ピクッ
この人…『夏海』って気づいたの?あれだけいったから…当たり前か。
そんなに驚くことでもないのに…体が震えだした。怖いからじゃなくて…なんかもっと…違う。私の中でなにかが大きく膨らむみたいな…変な感覚。

「夏海…体、震えてる。まだ、俺のこと怖いか?」
「…いえ。山科先輩こそ…震えてますよ。早く離れてください。…誰が見てるか…わからないんですから。」
私は、必死に声の震えを押さえながら…静かに返した。

スッ
私の体は呆気なく解放された。
意外と…無理矢理じゃなくて…安心した。

でも…肩はずっとつかんだままで…体が前を向かない。
「あ、あの…この手を「もう一回…」

「え?」
山科の目は、私をしっかり見つめて…離してくれそうになかった。
そんなに…見ないでほしい…。胸が押される感覚がする。
「もう一回…下の名前で呼んでくれないか?…頼む。一回だけでいいから。」

…変なの。私は、指示に従うことにした。
「秋羅…君。」
すると…山科は首を横にブンブンッとふった。
「呼び捨て。『君』とか要らねえから…呼び捨てで…。」
はぁ?面倒だな…。
「秋羅…。」
また山科の体はピクッと動いた。
その途端…山科の顔はカァッと赤くなった。
何、その反応…。調子狂いそうになる。

その時…山科はまた私を抱き締めた。と同時に…ガラスのカーテンを素早く閉めた。
フロントのところだけは、事故防止のためなのかレースだった。だから…そこからの光で薄暗くなっただけだった。

「あの…山科…先輩?」
「俺といるときは、そう呼んでくれないか?二人の時でいいから…。」
「あの…最初の命令と大分違くなってるんですけど…。」

すると、山科の口の方から舌打ちが聞こえた。
「お前、これ、命令だと思ってたのか?」
「…はい。」
じゃないと…あんたの言うことなんて聞いてないよ。

「命令じゃない。要望だ…だから…、拒否してもいい。」
さっきより…抱き締めるちからが強くなった。
「わかりました…秋羅…って呼びます。」
「…そうか…ありがとな…。」
「あの…苦しいんですけどっ!!」
私は、どうにか山科を押し剥がした。
でも…山科はうつむいてしまった。

「…大丈夫ですか?…!!」
山科は、泣いていて、私は、慌てて…ハンカチを渡した。
山科は、ハンカチは取らず…また私を抱き締めた。
「…悪い。もう少しだけ…。」
私は、頭では抵抗しないといけないとわかってた…のに、出来なかった。
山科の涙のせいなのか…私の中の自分で気がつかない気持ちの変化なのか…わからない。

私と山科は、しばらくこうしていた。

それから10分ほどたった頃…山科が沈黙を破った。
「…嫌だったろ?悪い。」
「また、初恋の人でも思い出していましたか?」
私は、急に何を言い出してんだろ。
山科は、ひどく驚いたのか…目を見開いた。
「あ、あぁ…。お前に、伝えるべきことがある…聞いてくれるか?」
「…はい。」
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