桜の約束
先生は、うんうんと何度か頷いてからお母さんと向き合った。
「桜さんは、一時的な記憶喪失に陥っているようです」
お母さんが、少し身を乗り出す。
「え?どういうことですか⁉︎」
「恐らく、事故によるものでしょう」
「それって、大丈夫なんですか⁉︎」
「学校生活を再開してから、問題が発生する可能性はあります。
今のまだ不完全な情報で絶対、とは言い切れませんが、恐らく桜さんが失ったのは中学入学から、事故の日事故の瞬間までの記憶です」
「そんな、部分的に忘れることってあるんですか…?」
「そうですね、桜さんではないのでわかりませんが。中学から、ここまでの記憶と中学以前の記憶に大きな違いがあるのなら、あり得るのでは無いかとわたしは思っています」
「そうですか…日常生活に問題はないんですか⁇」
お母さんは額を押さえ、落ち着こうとしているようだったけど、声や表情には動揺の色が濃く出ていた。
「多分、桜さんの失った記憶はエピソード記憶の部分です。なので、大きな問題は無いでしょう」
「エピソード…記憶…⁇」
知らない単語。
すぐに、お母さんが聞き返した。