今さら恋なんて…



いつもの龍哉じゃ考えられない様な仕草でグラスをテーブルに置いた龍哉は、

「いきなり返事が来なくなって…俺…仕事が手に着かなくなったんです…」

って、小さな小さな声でそう言った。


「…え…」


「考えられない様なミスをして…“お前おかしいぞ”って先輩に怒られて…このまま司さんに捨てられたら…俺はシーフォートの評判を落としかねないです」


「……龍哉」


「司さんは…もうずっと前から俺の精神安定剤みたいな存在なんです。始めは…俺が司さんを癒す存在になりたい、って思ってたのに…いつからか俺の方が癒されてることに気付いて…。今は…貴方にいつも癒されてるから…俺は俺で居られるんです」


「……」


「本当の俺は…もっとズルい男だと思います。だけど…司さんに側に居て欲しいから、カッコつけて…貴方の目に“イイ男”で映っていたかった。悲しいことも苦しいことも忘れて…俺の隣で笑っていて欲しかったんです」


「…龍哉…」


「……司さん」


「え?」


「ここ、出ましょう。…こんなところでする話じゃない…。送ります。…司さんの家、上がってもいいですか?」

龍哉はあたしの手を強引に引いて、席を立つと居酒屋をあとにした…。




< 454 / 479 >

この作品をシェア

pagetop