ゆとり社長を教育せよ。


それを裏付けるように、充の周りで次々と不可解なことが起こった。


「……最近、うちの会社に入ってる掃除の業者って変わったっけ?」

「え? 変わってないはずですが……」

「そっか。じゃあ新人さんでも入ったのかなぁ。この頃、この部屋のゴミ捨て全然やってくれないんだけど」

「……なんででしょう。とりあえず私が捨ててきます」


こういうのは、ささいなことだから特に気に留めなかったけれど。


「昨日、久しぶりに社食のモノ食べたらお腹下したんだけど。衛生管理ちゃんとしとくように栄養士と調理スタッフによく言っておいて」

「わ……わかりました」


まさか、何か盛られた……? なんて、思ってしまうようなこともあり。


「社長、どうされたんですか? その手の包帯……」

「いや、久しぶりに自分でコーヒー入れようかなと思ったら、サーバーの取っ手が外れて火傷しちゃって」

「取っ手が……? そんな、昨日私が使った時はなんともなかったのに……」


どれもこれも、“運が悪い”という言葉で片付けられてしまいそうな出来事。

……それでも、何か起こるたびに、私の中の恐怖心は増していた。

充にもっとひどい災難が降りかかってしまったらどうしよう。

そしてそれが、私のせいだったら――……


そんな不安を誰にも相談できずに抱え込むこと数日。

とうとう、私の恐れていた事態が起きてしまった。


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