ゆとり社長を教育せよ。


タクシーが病院に着くと、車から降りた私は一目散に受付へと向かった。


「あの……っ! 私、駅から落ちた社長の秘書なんですけど……っ」


気が動転していて、自分の情報をそんな風にしか伝えられない。

目の前で首を傾げる事務服の女性にやきもきして、ぐちゃぐちゃな頭で必死に言葉を組み立てる。


「だから、ふわふわした前髪の、結構イケメンの、見た目はチャラい大学生ふうだけど、実は社長の加地充って人、ここに運ばれてきたでしょ!?」


なんでわからないのよ!

受付の台をバシバシ叩きたいのを堪えながら必死で説明を続けていると――



「……美也?」



少し離れた場所から私の名を呼ぶ声がして、パッとそちらを振り向く。


「やっぱそうだ。心配してきてくれたの?」


ふわふわした前髪の、結構イケメンの、見た目はチャラい大学生ふうだけど、実は社長で……そして私の彼氏でもある、加地充がそこにいた。


「充……」


どうやら大した怪我はないみたい。

そのことにほっとすると、思わず浮かんだ涙で視界が滲む。

そんな私を見て少し驚いた表情をした彼は、すぐに駆け寄ってきて私に言う。


「どしたの。……俺が死んだと思った?」

「え、縁起でもないこと言わないで……っ」

「……だね、ゴメン。とりあえず、座ろっか、そこ」


受付の前に並ぶ椅子に二人並んで腰掛け、少し間を置いてから充は話し出した。


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