ゆとり社長を教育せよ。


……あ。そっか。ぎりぎりセーフって。


「今日まで知らなかったから、あげられるものが何もなくてごめん」

「……ううん、そんなの、いいよ」


途中まで最悪でしかなかった三十二歳の誕生日。

でも、最後の最後で一番大切な相手から“おめでとう”をもらえたんだもん。

それだけで、充分。こうして、そばにいてくれるだけで……


「……やめてよそんな可愛い顔するの。必死で抑えてるもん全部吹っ飛ぶから」


それはこっちの台詞だ。そんなに甘ったるい声で、ささやくように可愛いとか言うのはやめて。

私だって、いろいろ抑えてるんだからね……?

お互いにじりじりした想いを持て余しながら見つめ合っていると、充が少しだけ身を起こして私を上から見下ろした。


「……でも。ちゃんと我慢するから、キスだけ、させて」

「ん……どうぞ」

「もしも終われなかったら、それは美也のせいだから」

「ちょ、人のせいにしな――――」


言っている途中で、唇を塞がれた。

その柔らかくてあたたかな感触に、自然とまぶたを閉じる。


「ふ――――ぅ、ん」


角度を変えて降りてくる唇に応えていると、どうしてもあえぐような恥ずかしい声がこぼれてしまう。

腕を伸ばして充の首の後ろに手を回すと、よりキスは深くなって、身体からふにゃりと力が抜けてきて。

しばらくそのとろけそうな感覚に身を任せていると、名残惜しそうにゆっくり唇を離した充が言う。


「……あーもーダメ。これ以上したら美也のこと絶対完食しちゃう、俺」



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