ゆとり社長を教育せよ。


それがあまりに辛そうな言い方だったから、私は思わずクスッと笑ってしまった。

充は身体を起こして、半乾きだからかいつもよりパーマのきいた髪をがしがしとかきながら、私の隣にごろんと寝転んで言う。


「早いとこ役員招集して、新商品の件進めて、発売して……って。俺いつになったら美也のこと抱けんだ?」

「うーん……いつだろうね?」

「それがもし期限ぎりぎりの半年後だとしても……待っててくれる?」

「……どうしようかなぁ」


そう言ってちら、と充の方を見ると、あからさまに不貞腐れて頬を膨らませていた。

かーわーいーいー。仕事中にしたら張り倒すけど、恋人タイムならアリ。

乙女度120%の今の私は、何をされたって、あなたをもっと好きになる。


「……冗談よ。その日のこと、楽しみにしてちゃんと待ってる」

「ありがと」


ぎゅっと抱き締められて、目を閉じると途端に睡魔が襲ってきた。

充の温もりが心地良くて、伝わる鼓動のリズムが子守唄のようで。


――そして眠りに落ちる寸前、頭にひとりの同僚の姿が像を結んだ。

千影さんをそそのかしたり、無言電話をかけてきたり。

どうしてそんなことしたんですか――って、会社に行ったら聞かなくちゃ。


私は、同じ秘書課の“仲間”だと思っていたのに。

彼女はそうじゃなかったのかな……



ねえ、凜々子さん。

一体、どうして――――。


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