ゆとり社長を教育せよ。


「……私ねぇ、社長と結婚したかったの」

「え……?」

「だって。中身はアレだけど、見た目は悪くないし、何よりもお金があるでしょう? だから、まだ彼の秘書だった時に、それとなくアピールしてたつもりだったんだけど」


……そういえば、私の前に充の秘書をしていたのは凜々子さんだ。

彼女が他の人よりも長続きしていたのは、単純に根気があるんだろうと思っていたけど……

それは違った、ってこと?


凜々子さんは、キラキラ輝く自分のネイルを眺めながら、つまらなそうに言った。


「あの人、口を開けば高梨さん高梨さん高梨さん……ってもう、うるさくて。私なんて眼中になさそうだったから、とりあえず結婚は諦めたの」


うう……馬鹿だ、やっぱり。過去の充。

でも、彼なら言いかねないとも思うし、かすかに心の隅っこの方で、喜ぶ自分もいる。

って。もう、今は引っ込んでてよ、乙女美也!


「それで、専務に担当が代わったから、今度は専務に狙いを定めたんだけど……どうしてか彼も美也ちゃんがお気に入りで。
自分の社長就任が叶ったら、美也ちゃんを秘書にするつもりだなんていうんだもん。あなたのこと気に入らなくて当然でしょ?」

「……だからって、無言電話をしたり、充と別れさせようとしたりしたんですか?」

「そ。それと、美也ちゃんのことしつこく想い続けてたあの男を使って、ちょっと怖がらせようかなって」

「ちょっと……って」


そんな簡単な言葉で済ませられるわけがない。

私は監禁まがいのことをされたし、それに充は、かなり危険なことまで……


「そんな理由で、充をホームに突き落とさせたんですか? 助かったからよかったですけど、もしも命がなかったら……!」

「……ああ、それ?」


熱くなる私を、鼻で笑った凜々子さん。そんな彼女を見ていると、いら立ちが募る。


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