ゆとり社長を教育せよ。
16.秘書は料理される


そして迎えた金曜日の夜。

この日のためにハンバーグを作れるよう練習してきた私の腕前を披露するため、会社帰りに二人でスーパーへ寄ってから充のマンションへやってきた。


「言っとくけど、美也スペシャルはすごく美味しいから腰抜かさないでよね」


買い物袋を両手に持ち、廊下を先に歩く充の背中にそう言った私。

覚えたてのみじん切りを早くやりたくて、手がうずうずしている。

スパパンと華麗に切った玉ねぎは、半分だけ炒めて半分は生で使うのよ。

そうすると、ジューシーかつ心地良い歯ごたえが楽しめる……って、料理本の丸暗記だけど。

とにかく今日は包丁で指を切るなんて真似、絶対にしないんだから。


「すげー楽しみ。目玉焼きは乗っけてくれんの?」

「目玉焼き……? それは我慢しなさい」

「……目玉焼きはまだできない、と」

「うるさい! あ、ちなみに見られてると緊張するから、先にシャワーでも浴びてて?」


私はそう言いながらバッグからシュシュを取り出し、長い髪を軽く後ろで結ぶ。

そして流しで手を洗っていると背後に気配を感じ、後頭部が少し引っ張られた感覚がしたと同時に、髪がシュルンとほどけて背中に落ちた。


「ちょっと。料理するんだから縛ったままでよかったのに」

「違うよ。美也は料理されんの。つか食われるの、今から。俺に」

「今から……?」


振り返ろうとしたけれど、いつの間にお腹に回されていた腕の力が強すぎて身動きが取れない。

これは、いやな予感……

そりゃもちろん今日はそのつもりで来たけど、ここはキッチン! 料理する場所!

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