ゆとり社長を教育せよ。


頭を抱える勢いで混乱する私に、元チャラい学生、現ゆとり社長が手を差し伸べる。


「おねーえさん」

「何よ、ダンスなら踊らないわよ?」

「……違うよ。俺と結婚して?」

「却っ――――――」


……ままま待って。

今のは却下しちゃダメな発言だった気がする。

私の耳に間違いがなければ、結婚って……聞こえたような。


「もちろん、もうちょっと仕事の面で成長してから……とは思ってるけど、予約しとかないと心配で。美也ってモテるんだもん」


……やっぱり、今のはそういう意味だったんだ。

嬉しい。嬉しいけど……いいのかな、私なんかで。


「……充の方は、平気なの? ……いいとこのお嬢さんと政略結婚とかしなくて」


たまに忘れそうになるけど、充は社長なのだ。大手菓子メーカーの。

本人の思惑とは違うところで、そういう動きがあってもおかしくない。


「俺もちょっとそれ心配だったけど。こないだの親父の反応見たでしょ? かなり美也にヨメに来てほしそうだったじゃん」

「あ……確かに」

「そうでなくても、好きじゃない人となんて結婚するつもりはないよ。俺は誰が何と言おうと、美也がいいの」


ああどうしよう……プロポーズの嬉しさって、これか!

山の頂上から、やったー!って叫びたいくらい、幸せな気持ちがあふれて胸がパンクしそう。



「……で。美也の返事は?」



目の前に差し出された手を取れば、私もゆとり社長夫人とか言われて馬鹿にされたりするのかな。

でも、それでも構わない。

まだまだこの人には教育が必要だし、付き合おうじゃないの。

完全に脱・ゆとりを果たして、社員から尊敬されるような本物の社長になる道のり――。


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