ゆとり社長を教育せよ。


「ありがとうございます!」


パッと顔を輝かせた加地社長が頭を下げ、私も少しは肩の荷が下りた……と、胸を撫で下ろしたのもつかの間。



「――それにしても、おたくの秘書は美人揃いですねぇ」



ポケットから出したハンカチでおでこのサンシャイン(汗・皮脂)を拭いながら、目黒社長が私を見て言った。


「いえ、そんな……恐縮です」


オジサン特有のべたつき度高めの視線を受け流すように、私はうつむいてそう呟く。


「どうかね加地社長。一日くらい彼女を貸してくれたら、おたくの商品をさらに多く取り扱うよう、仕入れ課に圧をかけてもいいが……」


――ん? 仕入れ課に圧? なんか、話が異様な方向へ進んでいる気が……


「前任の子もよかったが、今回は気の強そうな瞳が私好みだ。どうだ、悪い話ではないと思うが?」


目黒社長は鼻息も荒く、ソファから身を乗り出す。


ちょっっと! この顔面太陽! なにが“悪い話じゃない”よ! ただの下心じゃないそれ!

マズイわ……これは断固拒否したいところだけど、私に決定権はない。

隣に座るこの頼りない若造が、毅然とした態度で断るとはどうしても思えないし―――



「……目黒社長。その発言は、セクハラです」



そう、こんな風にきっぱり言ってほしいけど、ゆとりくんにはきっと無理な話……って。

……え?


思わず加地社長の横顔を二度見すると、それは二度とも、さっきの商談の時よりずっとまじめで、真摯なものに見えた。


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