ゆとり社長を教育せよ。

「お疲れさまー……って。美也ちゃん、ホントにだいぶお疲れのようね」


私の向かいのデスクにバッグを置いて、佐和子さんが私の顔を覗き込む。


「仕方ないですよ、一日ゆとりくんの相手してるんですから」


そう、仕方ないんです……

私は凜々子さんの言葉に大袈裟に頷いて見せた。


「あ……そうそう、そのゆとりくんにさっき上で会って、美也ちゃんに伝言頼まれたわよ」

「え」


い、嫌な予感……。

私は顔を引きつらせながら佐和子さんを見つめる。


「“今日はオープンカーじゃないから、安心してください。門の前で待ってますね”――ですって。
もしかして、二人はそういうことなのかと思ったけど、美也ちゃんのその顔見る限り違うみたいね」

「当たり前じゃないですか!」


あんな覇気のないゆとり王子と“そういうこと”であってたまるもんですか!

しかし困ったな……門の前で待ち伏せされたら、どんなに知らんぷりしてもきっと逃げられない。

――そうだ。もともと他に約束があったってことにすれば……


「あの、佐和子さん! 今日って何か予定――」

「ゴメンね、今日は子供ら実家に預けて旦那とデートなのよ」


う、羨ましい……。いつも忙しい佐和子さんの夫婦水入らずをお邪魔するわけにもいかないし……


「じゃあ、凜々子さんは――!」

「ごめーん、まだ仕事終わんないんだ」

「……そうですか」


暇なのは、ゆとり社長の秘書だけってことか……

亜紀ちゃんも、ここに居ないってことは仕事中か、または常務といちゃついてるんだろうしなぁ……


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