ゆとり社長を教育せよ。


「し、失礼ですね……私だって料理くらい……」


誰か、やくそうをください……

あと、瞬時に料理が上手くなるツボがあったら教えて……そこ連打しますから。


「できるんですか? わー、楽しみだなぁ。
ちなみに、ハンバーグに入れる玉ねぎは炒める派ですか? 生派ですか? それとも半々とか?」


社長の無邪気な笑顔が胸にぐさぐさ刺さる。

……しかもなによその高度な質問。メンドクサイから生よ生!


「……生です。歯ごたえ重視で」

「へー、ウチと違う」

「……そりゃ、美也スペシャルですから」


なんて、自分の首を絞める嘘ばっかり並べていると、社長はハンドルを握りつつちらっとこちらを見て、嬉しそうに微笑む。


「楽しみです。すっごく」


いやぁぁ。お願いだから、そんな期待しないで……

内心頭を抱えてのたうち回っていたけれど、そんな素振りは見せずに窓の外なんか眺めてみちゃう意地っ張りな私。


車は海の側を通りかかっていて、遠くに見える船の灯りがキレイだった。

そういえば、高柳さんがみなと公園で待ってるってメモ残してったんだっけ……

あの公園ってこの近くよね。


でも高柳さんみたいな売れっ子が私に本気なわけがない。

きっと冷やかしに決まってる……


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