ゆとり社長を教育せよ。


「そんな顔しなくて大丈夫です。高梨さんはここに残って、新社長になる専務の秘書をそのままつとめてくれればいいみたいですし」

「ちょ、ちょっと待ってください!」


私が疑問に思っているのはそこじゃない。むしろ、彼の教育を中途半端にして新社長の秘書をするくらいなら、ガーナまでついていって成長を見届けたいぐらいだ。

そうじゃなくて、どうして社長が行く必要があるのかって、そこが不思議で仕方がない。


……今日の会議の内容を決めたのは専務だ。そしてその専務が新しい社長になる筋書きってことは。

もしかして、彼は社長の存在を疎ましく思って……?


「私、ちょっと専務室に行ってきます!」


カツン、とヒールを鳴らして扉に向かった私。けれどノブを回しても、そこは開かなかった。


「……待ってください。この話には続きがあります」


後ろから伸びてきた社長の手が、扉を押さえつけていたから。


「ガーナに発つまでの半年間の間に、俺が爆発的ヒット商品を生み出すことができたら、そのときは俺の代わりに専務が行くことになります。
そしてそのことを、俺の父――つまり会長も了解しています。
まぁ、彼らは俺にそんなことできないと思っててそんな条件を出したんでしょうけど……」


半年って……そんなの、無理に決まってる!

霧生くんのいる開発部の人たちがみんなで知恵を出し合って、それでちょうど半年くらいかかって完成するのが新商品だもの。

社長一人で、しかも“ヒットさせる”っていう条件付きってことは、半年間の間に発売も済ませなきゃならないってことだ。


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