ゆとり社長を教育せよ。


身体を反転させて社長の顔を見上げると、私は彼をにらんで言った。


「悔しくないんですか……? そんな無理な条件で、社長の椅子を明け渡しちゃうなんて」


私の言葉に社長は小さく笑って、それからまっすぐにこちらを見つめて言う。


「悔しいです。――だから、その条件、死ぬ気でクリアしてやろっかなって」


……気のせい、かな。今、社長の背中から後光が差しているような。

ただ午後になって傾いてきた陽が窓から差し込んでいるだけ?

どちらにせよ、今の発言はいい意味で全然ゆとりくんらしくない。

やっとやる気になってくれたのね……! どうしよう、ちょっと感動してる、私。


「そういうことなら、私もお手伝いします! これから忙しくなりますね、まず、何からやりましょうか」

「やる気出すために、高梨さんとデート」


はいはい、デートね! お安い御用――って。


「……はぁぁ?」


一瞬にして、彼にさしていた後光が消えた。

ちょっと、さっきの感動を返してよ!


「――本当は、ここに高梨さんが戻ってきたら、無理やりにでもキスしようと思ってたんです。高柳さんみたいに」

「……! あ、あれ、見てたんですか……」

「思いのほか会議がすぐ終わったんで、見てましたよ。でも、いらいらしちゃうから途中で帰りましたけど」


あー、秘書の仕事さぼって俳優といちゃつきやがって、ってこと?

その気持ちもわからなくないけど、私だってやりたくてやったわけじゃないし、何より私があそこへ行くことを許可したのはあなたじゃない。


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