私んちの婚約者
「たーいーくーつぅ!!透也、なんか芸やりなよ。こう、20階から飛び降りても大丈夫!的な」

「お前自分の立場をわかっているのか……っ」

私の言葉に透也がギリギリと歯軋りする。

「何の芸も無いの?ふ、やっぱりスネちゃまねえ」

「お前の言うことが出来るなら、それはもう人間じゃない!!」


人質生活、三日目。

私はあまり緊張感なく過ごしていた。
透也が温室育ちでイマイチ悪どさがないからかもしれないし、彼の顔が愁也に似ているからかもしれない。

……実はこれが私の弱み、だったりする。

どうにも殴り倒して出ていけないのは、愁也そっくりの透也を憎めないから。まあちょいちょい苛めてはいるんだけどね、だって素直なんだもん、この人。

ただ、実際問題、こいつ自身に問題がなくとも、こいつの護衛は強敵で。
なかなか逃げ出すチャンスを掴めずにいた。

「ねぇ、私を誘拐して、なんて要求したの?」

聞けば透也はキョトンと私を見る。
おいおい、悠長な誘拐犯だなあ。


「いや、俺じゃなくて兄が……」

え?

「更にお兄さんが居るの?」



「喋るなって言っただろう、透也」

言葉と共に部屋の扉が開けられた。
愁也そっくりの声で。だけど比べものにならないくらい、冷たいその声で。

「初めまして、高宮梓さん。透也の兄の、蓮也(れんや)だ」


透也ほどではないけれど、それでも愁也によく似ていて。
更に色気をプラスしたような、凄く端正な顔立ちの男性が私を見ていた。

わあぉ、愁也の未来予想図……?か、格好良いじゃん。
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