私んちの婚約者
「へぇ。あの高宮の娘ね」

面白そうに、蓮也が呟く。

「父のこと、知ってるんですか?」

私の質問に、蓮也は頷く。

「随分と型破りな経営で急成長している会社だろう。神前に及ぶわけもないが、一応これでも会社の経営陣に居るのでね。他社のことはチェックしている」

ふーん、この人はスネ男じゃないんだ。

「なんだよ、その視線!」

「うん……透也も少し社会に出たほうがいいよ?20代も半ばで、スネちゃまはイタいよ?」

「余計なお世話だ!!」

涙目になっちゃった透也はおいといて。

「で?愁也に何をさせたいの」

私は蓮也へと目を向ける。


蓮也は答えずに、静かに私の傍まで来て、私の左手を掴んだ。
そこに光る、エンゲージリングを睨みつけ、

「……婚約者だと?君のどこに愁也は惹かれたんだろうね」

その目が、明らかに私を蔑んでいる。

悪かったな!中小企業のちっぽけな娘で!!
こいつ絶対性格悪い!ムカつく!!

「君にどんな取り柄があるのかな」

なにこいつ。この上から目線は何?むしろ頂点目線?
……面倒くさい。

「はあ。料理とキスだそーでぇ……」

愁也に言われたことを、馬鹿正直に口にしてしまった、瞬間。


「あ痛っ!!」


蓮也が掴んでいた私の左手を思い切り引いて、

倒れ込んだ私の顎を掴むと、私の唇に自分の唇を押し付けた。



「ん、―――っ!!」



頭が、一瞬真っ白になった。



「兄さん!?」



透也の声を聞いて。
目の端に映ったその顔が一瞬、愁也に見えて。

無意識に。


ガリ、と音を立てて、口の中に血の味が広がった。


「……っ痛」

小さく呟いて歪んだ、蓮也の顔が離れていく。
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