私んちの婚約者
*side愁也

神前グループ社長就任パーティー。

ムカつくしかない盛大な宴会に、蓮也に無理矢理連れ出された。
すでに何度か会議やら何やらで顔を合わせた役員たちが、媚びへつらいながら代わる代わる挨拶をして来る。
未だに一度も会ったことのない俺の父親――神前会長も出席するらしい。


「全く、操り人形にするにはお前は優秀すぎる。本物の信望者が付く前に、世代交代して貰わないとな」

蓮也が勝手なことを言って、俺を睨みつけた。

「へぇ、このまま社長の椅子に座り続けるかも、とかは思わないんだ?どうする?ここを俺に乗っ取られたら」

俺の言葉に蓮也が嘲笑う。

「何のために高宮梓を生かしておいたと思う。あの娘がお前の未練で、足枷なんだろう。彼女のもとに戻りたいというのなら、俺の言うことを聞くしかないね」

チッ。確かにその通りだ。


その時、マナーモードにしている蓮也の携帯が震えた。

電話の向こうの声を聞いて、彼がくっと笑う。

「下の警備員に高宮梓が捕まったそうだ。潜り込むかと思って手配しておいだがやはりな。……本当に情熱的で目障りな小娘だな」

梓……。

恋しい反面、梓がここまで来られなかったことに安堵する。

「容易いものだ」

蓮也が皮肉気に笑って、彼はすぐに大物政治家とやらに挨拶に行った。


「はあ……」
面倒だな。

何となく見回した会場に、遅れて入ってくる透也を見つけた。随分と綺麗な女を連れている。

あいつにそんな甲斐性があったとはね……。

と、視線を外しかけて。
とっさに信じがたい類似を見つけて、もう一度そちらを見た。


「梓……?」


確認するより先に、零れ落ちた、直感。


透也の隣に立つ女。

あれは。



梓だ。
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