私んちの婚約者
しばらく三人でああだこうだと話し合って、休憩しようという事になって。

私は眠気覚ましに洗面所で顔を洗って。戻ろうとしたら、マキと透也の声が聞こえた。


「呑気だな。あんたら」

「馬鹿じゃないの?私は怒ってるのよ」

マキの低く抑えた声。
彼女が本気で怒ってるときの声音だ。

「あなた達の事情に勝手に巻き込んで、梓にあんな顔をさせて。私が梓の無理に笑う顔を、見抜けないとでも思ってるの?」

マキ。
そうだよね。マキは私の親友だもん。
厳しい事ばっかり言うけど、面白がってばっかりいるけど、本当は私を一番心配してくれて、大事にしてくれてるの。

斜め横な角度から、わっかりにくい優しさを突っ込んでくる彼女が、私は大好きなんだ。


「まあ私は愁也さんにも怒ってるんだけどね。梓を見くびり過ぎよ」

はあ、と溜め息をつくマキ。

「ダメって押さえつけたら、反動でスッ飛ぶに決まってるじゃない」

えぇ~マキさあん。
私を何だと思ってるのー。

私はマキの友情溢れる言葉に、ちょっとだけうるっときた顔をもう一度洗って。


「ミッションスタート。頑張りなさい、梓」

鏡の中の、情けない顔した私に呟く。



愁也。



あなたに逢いに行く。
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