私んちの婚約者
「全然覚えてないの、梓?」

未だ笑いを含んだまま、愁也が聞く。


「だから、実は何もなかった、でしょ!」

かすかな期待を込めて言えば、彼は眉を上げた。
黒い瞳が煌めいてーー。


「身体に聞いてみれば」


その手が、私に伸びる。


愁也の大きな手のひらが、私の首筋を、胸のあいだを、お腹を伝って。


あ、なんか、覚えのある感触。


長い指が、熱を孕んで。

ーーしがみつくように、抱き締める腕、落ちる汗。

ーー私を見つめる、目。


「あれ?」


眼前に広がったフラッシュバックに、冷や汗がつーーっと流れた。




「……あ」



はい、やりました。

犯人は私です、うわあああん!!



黙ってしまった私を覗き込んで、愁也がニヤリと微笑んだ。


「思い出した?」
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