私んちの婚約者
家出、婚約者
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そうしていつもの日常が戻ってきて。
すっかり忘れかけていたイタリアへの準備も再開したある日、私が愁也の部屋へ呼ばれて行くと。

「ねー愁也、見とけっつってた資料って何……」

「はい、梓」

てっきりイタリア行きのための資料かと思いきや、愁也から渡されたのは電話帳並みの厚さの雑誌。

「……なにこれ」

愁也はにっこりと笑う。

「好きなの選んでおいてね?」

あの、表紙にゼク●ィってあるんですけど。
結婚式場の、情報誌?

「女の子が無言でこれを読むだけで、男へのプレッシャーを自動的に掛けられるという、素敵な雑誌だよ。梓は気に入ったページを折っておけばいいから」

……そのプレッシャーは女の子側にもかかるものなんでしょうか。

「もうアンタは放っておくとすぐ他の男に迫られるからな。早く捕まえたいよ」

私は幻の珍獣かなんかですか?
ハンターに探される系の生き物ですか。

頭を抱えそうになった私の前で、愁也はう〜んと思案してみせる。至って真剣な表情なのがタチ悪い。

「いやまてよ、そんなナリで人妻なんて言うほうがマニアにはクるかもな。いっそ無人島に住む?」

「ちょっと、黙ろうか……!!」

そんなナリってどんなナリよ!?

いささか壊れっぱなしの愁也は放っておいて、私はパラパラと雑誌をめくる。

ふむふむ。

「……披露宴て、美味しそう~」

「……ああ、アンタはそうだよな」

呆れた顔で愁也が私の手から雑誌を取り上げた。
いいじゃん、本当のことなのに!!

私は愁也を見上げた。

「結婚式とか、披露宴とかはいいよ……一緒に居られれば、さ」

私にしては、かなり恥ずかしさを我慢して、素直に言ってみた台詞。
愁也は目を見開いて聞いてきた。

「梓、壊れちゃった?」

……それはアナタ!!

バシバシと愁也へクッションを投げつけながら、私はぼそりと言う。

「面倒じゃん。籍ならいつ入れても良いって父も」

「ダメ。ウェディングドレス姿の梓を見たいから」

面白がるような愁也の言葉に、思わず顔が赤くなる。


「で、それ脱がすまでが男のロマンだからね?」

……変態発言が出ましたけど。


いやまてよ、タキシード姿の愁也とか、もしかして鼻血級かもしれなくない?


「……梓、エロい事考えてない?」


かっ、考えてませんっ!!
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