私んちの婚約者
高宮の会社に愁也が居なかった間は、父がイタリア支社の準備中ということにしておいたらしい。

「久しぶりに出社したら神谷に書類を山積みされた」
と、愁也が苦々しい顔で帰宅して。

「同じく、教授にレポート提出しなきゃ留年て言われた」

私もぶーっと膨れ顔で資料の山を持ち帰っていた。

二人してリビングで書類と睨めっこしていると、“ピンポーン”とドアチャイムが鳴って。

「誰だろ?」

私が聞けば愁也も首をひねる。
お互いに来客の予定は無いんだ。
むむ?

「出てくるね~」


私はパタパタと玄関に向かった。
玄関の扉に手を掛けて、扉の向こうに呼びかける。


「はあーい、どちらさま……」

「梓、相手は確認してから開けろよ」

「ほぇ?」
もう遅い。

“ガチャ”

後ろからついてきた愁也の言葉より先に、ドアを開ければ。


「来ちゃった」


見たことある顔だな。
具体的には今私の後ろに立ってる男とか。


――バンッ!!

愁也が私の後ろから猛烈な勢いでドアを閉めた。

「ぎゃっ」

あ、今ドアが顔にぶつかったんだろうな。かわいそうに。

「……見なかったことにしよう」

有り得ないほどイイ顔でニッコリ微笑む愁也。

うっわ~……。
爽やか悩殺スマイルで押し切るつもりだあ。

「うん、でもさあ、あれ、アナタの弟……」
「見なかったことにしよう?」

うう、笑顔恐い~。

物凄いプレッシャーに、私はドアから手を離す。

「うん、いい子だな?」

……愁也さん、オトナ気ないですよ。

「おいこら、開けろよ!」

うわ、バンバン扉叩くな!!うちが壊れるっ!

止まない攻撃に、私は慌てて背後に訴える。

「ねぇ、ご近所迷惑だよ」

愁也におうかがいを立てれば、彼は扉を睨んで舌打ちした。

「どこまでもムカつく奴だな」

……お兄ちゃ~ん?

ということで。
外で騒ぐ阿呆を、私達は仕方なく入れてやることにした。
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