私んちの婚約者
「う」
「ワーオ」

私が呻いた横で、レオが口笛を吹いた。
視線の先の二人は、そのまま店へと入って行く。
あれ、どこかで見た事がある……。

『あ……』

その瞬間、彼の声を思い出した。

……この店。
多分、あの日に愁也が目を留めた場所だ。イタリアに来た最初の日。愁也はここを見てたんだ。
ウィンドウから中を見れば、アンティークっぽいアクセサリーやドレスが並ぶ店。
その奥で愁也と彼女が笑いながら服を選んでいるのが見えた。

ヒラヒラレースにキラキラストーン、ゴージャスなドレスは到底私には似合わない。
ああいう大人美人に似合うような。

……彼女にプレゼントするため?


「まさか本当に浮気とはね」

レオが楽しそうに言って、私を見た。

「アズサ?」

それまで愉しげだった瞳が、少しだけ揺れる。
多分私が激怒するか、泣き出すかを期待してたんだろう。
だけど私はどっちでもなく、ただ無表情だった。

彼女が、『エリカ』なの?

あまりに信じられない光景に、脳が現実を拒否しようとする。

ちょ、ちょい待ちなさい、プチ梓の脳内会議、会議しようよ。緊急召集!
こら、どうした!一匹くらい来んか!!

……誰か何とか言って。


泣かないもん。
泣かないもん。
だってまだ、愁也に何も聞いてない。
何にも、聞いてないもん!

しっかりしろ、梓。
勝手に諦めちゃダメだ。

「アズサ、僕が慰めてあげるから……痛たたた」

私の肩にまわされたレオの手をギリギリつねってやった。


「気安く触るな、馬鹿!!今ご機嫌斜めだ!!」

「どうやらそのようだね」

レオは溜め息をついて、私の手を引っ張った。


「気分転換に、デートしようよ。どこに行きたい?」

何言ってんの、コイツは?

結構ですと手を振り払おうとして、そんな力もない。
私を覗き込むレオの目には、からかうだけじゃなくて、心配する色も確かにあって。

……仕方ない。


「……美味しいものがあるとこ!」

「そうこなくちゃ」

「ヤケ食いだああっ!」


そして私は何故か、レオと食い倒れツアーをすることになったのだった。
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