私んちの婚約者
愁也の前まで来て、父が私を彼に引き渡しながら、ぼそりと呟く。

「……愁也君、やっぱり梓をあげるの止めてもいい?」

良いわけないだろ、阿呆父!!

愁也は微笑んで、父に言葉を返す。

「もう遅いですよ。俺はすっかり梓の色仕掛けに捕まってますから。……ダメなら攫って行きますけど?」

う。
うわあぁあぁ~!!
なんだか恥ずかしい!
恥ずかしいよ、愁也さん!!!

思わず赤くなった頬を押さえたくなる私の隣で、それを聞いた父が仕方ないなあ、なんて言って。

「それは嫌~。仕方ない、もってけドロボー」

神聖な場所で何言っちゃってるんだ、あんたらは。
爽やか満点な笑顔で愁也がにっこり笑ってみせる。

「ありがとうございます、お義父さん」

「わあ、聞いた?梓。愁也君がおとうさんて」

「父、早く引っ込んで」

思わず突っ込んだ私に、愁也が手を差し伸べた。

まったく、父の扱い方を完全マスターしやがって。
……ついでに私の扱い方も、だ。

私はその手を取って、そのまま彼の腕に添える。

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