私んちの婚約者

「蓮也さん、わたくしあなたのことが好きです」

「はい」


二人で向かい合ってお茶を飲みながら、私は言ってみた。
長い睫を伏せる蓮也さんの姿に心臓はバクバクだけれど。

「本当に、好きなんです」

「知っています」

重ねて言えば、蓮也さんは少し苛立たしげに私を見た。

「私は、あなたと結婚すると言っている。私にとって結婚は家を繁栄させるためで、あなたの家柄は申し分ない。あなたの気持ちはどちらでも良い」

……そうでしょうね。

「そんなの私は嫌です。あなたにも、私を好きになってもらいたい」

馬鹿な願いでしょうか。
お嬢様の傲慢だと、ワガママに聞こえるのでしょうか。

「好きだ好きだと言えば、私があなたを好きになるとでも?子供じゃあるまいし」

ふ、と冷酷な目で蓮也さんが言った。

「確かにそうですわね。私は浅はかです。けれど、気持ちは伝えないと意味がないでしょう?」

微笑んで見せれば、蓮也さんは驚いたように私を見た。
けれどそれをすぐに消して、淡々と言う。

「私はあなたを愛していない。必要性も感じない」

そのまま立ち上がって、部屋から出ていってしまった。

あらあら……。

入れ替わりに、彼の弟、透也さんが部屋に入って来る。


「あれ?葵さん、蓮也兄さんは?」

「また怒らせてしまいました……」

苦笑すれば、透也さんは困ったように私を見た。

「泣くなよ」


言われて初めて、自分の涙に気付く。
彼の言葉に傷ついた自分に、やっと気付く。

「あら、不覚ですわ。へこたれてたら勝てませんもの。梓さんを見習わなくては」

わざと軽く言ったのを、透也さんは気付いていて、けれど気付かないふりをしてくれた。

「兄さんかなりひねくれ者だからさ、わかりにくいけど。多分葵さんに翻弄されるのが怖いんだよ。計算できないことは苦手な人だから」

そうね。でも。

「そんなのズルいですわ。絶対逃がしませんわ!」

「うん。兄さんのこと、見捨てないでやって」


透也さんは笑って頷いてくれた。
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